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熊本地方裁判所 昭和47年(わ)57号 判決 1973年3月01日

本籍

愛媛県桑郡丹原町大字高知六八八番地

住居

熊本市保田窪本町三八七番地の六

漆器販売会社役員

河野増一

昭和七年一〇月八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官横井治夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を徴役六月および罰金四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

但し、本裁判確定の日から三年間、右徴役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、熊本市保田窪本町三八七番地の六において漆器の販売業を営んでいるものであるが、所得税を免れる目的で、福岡相互銀行熊本支店に加藤喜八、同銀行大牟田支店に藤木幸喜の架空名義の当座取引を開設し、その各名義で仕入れに対する手形決済をして他人名義の取引を仮装し、また収入金を仮名の定期預金にするなどの行為により、所得の一部を秘匿したうえ、

第一、昭和四三年中における被告人の右事業による所得金額は三、七四二万七、六四三円であって、これに対する所得税額は二、〇〇九万一、三五〇円であるのに、その確定申告期限である昭和四四年三月一五日までの間熊本市二の丸一の四所在の熊本税務署において同税務署長に対し、所得金額は一二三万三、二八〇円、これに対する所得税額は一〇万六、三〇〇円である旨虚偽の所得税申告書を提出し、もって不正の行為により前記正当税額と右申告税額との差額一、九九八万五、〇五〇円を免れ、

第二、昭和四四年中における被告人の右事業による所得金額は一、五一三万一、〇七〇円であって、これに対する所得税額は六四九万一、八〇〇円であるのに、その確定申告期限である昭和四五年三月一五日までの間前記熊本税務署において同税務署長に対し、所得金額は一四三万三、〇〇〇円、これに対する所得税額は一二万八、八〇〇円である旨虚偽の所得税申告書を提出し、もって不正の行為により前記正当税額と右申告税額との差額六三六万三、〇〇〇円を免れ、

たものである(各事業年度の実際所得金額および税額の算定は、別紙各修正貸借対照表および税額計算書のとおり)。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述ならびに検察官に対する供述書二通

一、収税官吏の被告人に対する質問てん末書一七通

一、河野経子の検察官に対する供述調書

一、収税官吏の河野経子に対する質問てん末書一三通

一、河野経子作成の上申書

一、久次通弘の検察官に対する供述調書

一、収税官吏の久次通弘に対する質問てん末書四通

一、収税官吏の山口登、中村治一、古賀洋一、日置為彦に対する各質問てん末書

一、山口登作成の上申書

一、収税官吏の富田修に対する質問てん末書二通

一、収税官吏の与儀実照、井芹靖子に対する各質問てん末書

一、西正博検察官に対する供述調書

一、収税官吏の西正博に対する質問てん末書

一、西正博作成の上申書四通

一、収税官吏の木津澄男、斉藤崇行、河瀬行雄、稲垣博司、加藤正、宮原美代子、牛丸賢郎、手塚確、鳥井友吉に対する各質問てん末書

一、収税官吏の坂本正信に対する質問てん末書

一、収税官吏の横井健一に対する質問てん末書

一、収税官吏の花田伊津子、浦島ハナ子、金子隆子、中村一郎、江良重太郎、高見礼子、黒木八朗、大鶴フミ子、神菊博文、平田弘昭、石村隆男、高橋初音、朝広令子、木村栄、甲斐ぬい子、田中ヨシ子、西川勘太に対する各質問てん末書

一、不破昌敏作成の上申書(昭和四五年六月一九日付)

一、牛丸賢郎作成の上申書

一、鳥井今枝作成の上申書

一、渡辺利恩作成の上申書

一、前田裕子、馬見塚至子作成の各上申書

一、秋窪久雄、山本文子、楠元貞子、平山ミサヲ、上村ハル子、柏木至吉、大坪サイ子、中嶋皓、原茂、村山ヨシ子作成の各上申書

一、宍倉亀吉作成の昭和四六年一〇月二四日付上申書二通

一、被告人の昭和四三年度分所得税確定申告書写

一、被告人の昭和四四年度分所得税確定申告書写

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、判示第二の事実について、被告人は昭和四四年中に、株式会社マルカ輪島漆器商会(以下単に法人という)を設立し、これに被告人個人の営業を引継いだものであるが、その引継に伴って売掛債権の譲渡損失一、九〇六万九、一一二円が発生したので、同額を被告人の同年度分の所得計算上経費に計上すべきであり、そうすると、同年度分のほ脱所得はあり得ないことになる旨主張する。

しかしながら、弁護人の援用する昭和四五年六月一日付被告人・法人間の営業引継契約書(写)によるも、売掛債権の譲渡を含む営業引継契約は昭和四五年一月一日を以て効力を発するとされている(同契約証書第3条)から、売掛債権の譲渡による帰属の変動は、右同年一月一日の時点で生ずることになり、昭和四四年度分の所得計算上の問題とはなり得ない。のみならず、証人橋口俊一の当公判定における供述、西正博作成の昭和四六年四月二一日付上申書、収税官吏の西村博に対する同年五月七日付、河野経子に対する同年二月四日付、同年一一月一〇日付、被告人に対する同年一月二八日付、同月二九日付、同年二月三日付各質問てん末書、被告人の検察官に対する各供述調書、被告人の昭和四四年度所得税確定申告書与、法人の昭和四四年度法人税確定申告書(昭和四七年押第二〇号の五四中)、その他関係証拠によれば、前記営業引継契約証書は、昭和四六年一一月一〇日以後において作成日付を昭和四五年六月一日に遡及して作成されたものであること、法人は昭和四四年一二月一一日に設立されたものの、その現実の営業は昭和四五年一月一日から開始されていること、昭和四四年末においては被告人の個人営業に関する帳簿等が不備なため被告人の全財産の把握確定が不能の状態であったのであり、そのため被告人および関与税理士らは、本件査察調査による被告人の財産の確定をまってその結果に基き法人に対する現実の引継を行う意図であったし、事実、昭和四五年一月以降において逐次、把握確定ずみの資産を法人に引継ぐ具体的経理処理を行っていること、被告人は昭和四五年三月、昭和四四年度分の所得税の確定申告をする際に法人に対する営業引継に伴う譲渡損失等の申出をしていないし、法人においても昭和四五年二月、昭和四四年度分の法人税の確定申告をする際、被告人からの引継資産を全く計上していないこと等の事実が認められ、これらの事実に徴すれば、被告人の法人に対する売掛債権の譲渡を含む営業の引継が昭和四四年末までに行われていないことは明らかである。そうだとすれば、その余の点につき判断するまでもなく、弁護人の主張は理由がないので採用することができない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為、所得税法二三八条一項に該当するところ、所定の徴役刑および罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、徴役刑については同法四七条本文一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をなし、罰金刑については同法四八条二項により所定各罰金の合算額以下において処断することとし、その刑期および金額の範囲内で、被告人を徴役六月および罰金四〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとするが、右徴役刑については諸般の情状を考慮し同法二五条一項を適用して本裁判確定の日から三年間その執行を猶予する。

よって主文のとおり判決する。

昭和四八年三月一五日

(裁判官 吉永忠)

修正貸借対照表

昭和43年12月31日現在

<省略>

修正貸借対照表

昭和44年12月31日現在

<省略>

ほ脱税額計算書

<省略>

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